最近ニュースで話題になっている「OTC類似薬の保険外し」。
まだ患者さんからの質問は少ないかもしれませんが、2026年度から段階的に始まる予定です。
この記事では、今わかっている情報を整理しつつ、薬剤師として知っておきたいポイントをやさしく解説します。
背景|なぜ今「OTC類似薬の保険外し」が話題なのか
2025年6月13日、石破内閣は「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」を閣議決定し、その中でOTC類似薬の保険給付の見直し(保険適用除外)が明記された。
実際には、これに先立ちOTC医薬品の活用を見据えた制度的な布石はすでに打たれている。たとえば、2020年度の調剤報酬改定においては、「地域体制加算」の算定要件に「OTC医薬品を40品目以上備えること」が追加された。この加算は、軽微な症状に対してOTC薬で対応できる体制を整備し、地域住民の健康を支える薬局を評価する仕組みである。
すなわち、相談しやすく、セルフメディケーションを支援できる薬局の育成が目的とされている。今回の「OTC類似薬の保険外し」は、こうした政策の延長線上に位置づけられるものであり、保険給付の適正化と医療資源の重点的活用を目指す改革の一環である。
OTC類似薬とは何か
- OTC薬(一般用医薬品)
薬局やドラッグストアなどで、処方箋なしに購入できる医薬品のことを指す。 - OTC類似薬
医療機関で処方されるが、市販薬にも同じ成分や類似した効果を持つ薬が存在するものを指す。
具体例として、以下のような医薬品が該当する。
処方薬名 | OTC薬名 | 主成分 |
アレグラ錠 | アレグラFX | フェキソフェナジン塩酸塩 |
ロキソニン錠 | ロキソニンS | ロキソプロフェンナトリウム |
ガスター錠 | ガスター10 | ファモチジン |
保険外しとは何か
これまで、OTC類似薬であっても、病院で処方されれば保険が適用され、安価に入手することが可能であった。
しかし、今後は以下のような方向に制度が見直される予定である。
「その薬は市販薬として購入できるので、保険は使えません」
つまり、OTCと同じような薬は保険の対象から除外され、自己負担で購入してもらう仕組みに移行するということである。これが「OTC類似薬の保険外し」と呼ばれる政策である。
保険外しの目的
この制度変更には、複数の目的がある。以下に主なものを整理する。
1. 医療費の増加抑制
日本の医療費は年間約48兆円に達しており、さらなる増加を防ぐ必要がある。
2. 現役世代の負担軽減
社会保険料の負担が重くなっており、年間6万円の負担減が目標とされている。
3. セルフメディケーションの推進
軽い症状であれば、市販薬で自己対応してもらうことにより、受診回数を減らすことが期待されている。
4. スイッチOTCの推進
海外で市販薬として認められている60成分を、2026年度末までに日本でもOTC化する目標が掲げられている。
5. 医療保険制度の持続可能性確保
高齢化の進展に伴い、限られた財源の中で制度を維持するためには見直しが不可欠である。
6. 無駄な受診・処方の削減
日本は病院受診回数が世界的に見ても多く、非効率な医療提供体制が課題となっている。
実施時期と対象
「骨太の方針2025」には、OTC類似薬の保険外しを2026年度から段階的に実施する方針が明記されている。
制度の具体的な内容については、2025年末までに検討が進められる予定である。
現時点では、厚生労働省から対象となる医薬品の具体的なリストは発表されていないが、報道等により以下のような薬剤が対象となる見込みである。
- 成分・用量が市販薬と同等の処方薬
- 特に風邪薬、胃腸薬、鎮痛貼付剤、花粉症薬、点眼薬などが中心となる見通し
政府は、2026年度末までに約60成分をスイッチOTC化することを目標としており、これに向けた取り組みが着実に進行中である。
保険外しのルールと例外規定
保険外しは、「国が指定する品目については、医師が必要と認めても保険が適用されない仕組みへ移行する」という内容である。
ただし、以下のような患者層に対する一定の配慮が検討されている。
- 小児
- 慢性疾患患者
- 低所得者層
これらの対象については、今後の制度設計の中で例外的に保険適用を認めるかどうかが議論される見込みである。
賛否両論の声
今回の制度改正には、賛成と反対の両方の意見が存在する。以下にその主な論点を整理する。
賛成意見(主に一部の政治家、医療従事者など)
- 過剰な受診の抑制につながる
→ 軽微な症状での病院受診を減らし、医療資源の適正配分が期待される。 - 公的医療費の削減が可能になる
→ 保険が使えなくなることで、税金や保険料による負担が減り、国民全体の負担軽減につながる。 - 医療提供体制の効率化
→ 勤務医や薬剤師の約6割が制度に賛成(m3.com調査)。「風邪薬や湿布薬は保険外でよい」という声もある。
反対意見(日本医師会、患者団体、開業医など)
- 受診控えによる健康被害の懸念
→ 軽症に見える症状の背後に重大な疾患が隠れている場合があり、治療の遅れや重症化のリスクがある。 - 経済的負担の増大
→ 市販薬は処方薬より高額であり、特に低所得者層や高齢者、小児などにとっては負担が重くなる可能性がある。 - 薬の適正使用の困難
→ 市販薬を自己判断で使用することで、誤用や相互作用による健康リスクが高まる。病気や薬のことがよく分からない人には、きちんと説明してあげないと、間違った使い方をするおそれがある。
日本医師会は「社会保障のセーフティネットが損なわれる」として、制度に強く反対しており、開業医からは経営への悪影響を懸念する声も上がっている。
薬剤師に求められる新たな役割
OTC類似薬の保険外しが進めば、薬剤師の果たす役割は今まで以上に重要になる。以下に、今後求められる可能性が高い業務や対応を示す。
OTC薬の適切な選択と提案
患者は「どの市販薬を選べばよいかわからない」と感じる場面が増えると予想される。薬剤師は、症状、持病、併用薬を踏まえたうえで、最適なOTC薬を選び提案する能力が求められる。
服薬歴の把握、副作用の説明、禁忌チェックなどを通じて、安全かつ安心して使用できるよう支援する必要がある。
スイッチOTCへの移行支援
今後、医師が初期治療を行ったのち、薬剤師が市販薬への切り替えを提案する流れが一般化する可能性がある。
たとえば、「長期間ガスター20mgを服用していた患者に対し、市販の10mg製剤への切り替えを提案する」といった対応である。
このような判断には、処方歴と症状の安定性を適切に評価する能力が求められる。
かかりつけ薬局としての信頼性の向上
保険適用除外により、患者は薬の選択に悩むことが増える。その際に「相談できる薬剤師がいる薬局」に人が集まるようになる。
OTCに関する相談体制を整え、地域住民との信頼関係を構築することが、今後の薬局経営において重要な要素となる。
服薬フォローと副作用チェックの強化
OTC薬は自己判断で使用されがちであり、継続的な服用による症状の悪化や副作用の見逃しが懸念される。
薬剤師は、「毎日胃薬を飲んでいるが改善しない」といった相談に対し、「この段階では医師の診察が必要です」と適切に受診勧奨を行うことで、健康被害を未然に防ぐ役割を担うことができる。
まとめ|「OTC時代」にこそ薬剤師の専門性が問われる
OTC類似薬の保険外しは、制度としては賛否が分かれる内容です。
医療費の抑制やセルフメディケーションの推進といった前向きな目的がある一方で、経済的な負担や医療の質の低下といった懸念も指摘されています。
とはいえ、制度として進んでいく方向はすでに示されており、今後は薬剤師がより一層、地域での相談対応や服薬サポートに力を発揮していくことが求められる時代となると思います。
これからの薬剤師には、「薬を渡す人」から一歩進んで、「薬を選び、使い方を支え、安心を届ける存在」としての役割が期待されています。
制度の動きをしっかりと理解しながら、患者一人ひとりの不安に寄り添い、適切な提案ができるよう、日々の学びと経験を積み重ねていきましょう。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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