高血圧の患者さんとお話ししていると、こんな質問が次々と飛んできます。
- 血圧って、いくつを超えたら「高い」の?
- 血圧計はどれを選べばいいの?
- 測定は1回でいいの?何回も?
- 薬を飲み忘れたら、どうしたらいい?
- 血圧が下がってきたら、薬をやめてもいいの?
さらに
この患者さん、心臓の病気もあった気がするけど…この場合の血圧の目標って?」
「あれ?糖尿病の人って、もうちょっと厳しめだったっけ?」
こんなふうに、なんとなくは分かっていても、自信を持って説明できるかというとちょっと不安。
そんな経験、ありませんか?
ただ単に「診察室で140/90mmHg以上なら高血圧です」と答えるだけでは不十分。
実は、患者さんが持っている病気によって目指すべき血圧の値は変わるんです。
だからこそ、目の前の患者さんに合わせた説明や服薬指導ができることが今、薬剤師に強く求められています。
「かかりつけ薬剤師」が注目される今、こうした一歩踏み込んだ対応がますます大切になってきました。
この記事では、高血圧治療ガイドライン(JSH2019)や信頼できる情報をもとに、薬局でよく受ける質問に一つひとつ分かりやすく答えていきます。
読み終えるころには、きっとこう思えるはずです。
「これなら、患者さんに自信を持って説明できる!」
血圧って、いくつを超えたら「高い」の?
高血圧とは
血管にかかる圧力(=血圧)が高い状態。
放っておくと、脳卒中・心筋梗塞・腎臓病などのリスクが高まる。
高血圧の症状
- 多くは無症状(=サイレントキラー)
- 進行すると
- 早朝の頭痛
- 夜間の頻尿・息苦しさ
- めまい・ふらつき・足の冷え
→臓器へのダメージ(合併症)のサインかも
高血圧の診断基準
測定場所 | 高血圧とされる基準 |
診察室 | 140 / 90 mmHg 以上 |
家庭 | 135 / 85 mmHg 以上 |
✅血圧の分類(JSH2019)
分類 | 診察室血圧mmHg | 家庭血圧mmHg | |
正常血圧 | < 120 / < 80 | < 115 / < 75 | 理想的な血圧 |
正常高値血圧 | 120–129 / < 80 | 115–124 / < 75 | 正常だけど将来高血圧になるリスクがやや高いゾーン |
高値血圧 | 130–139 / または 80–89 | 125–134 / または 75–84 | すでに心血管リスクが少し高くなっており、生活改善が必要 |
Ⅰ度高血圧 | 140–159 / または 90–99 | 135–144 / または 85–89 | 高血圧と診断され、基本的に治療の対象 |
Ⅱ度高血圧 | 160–179 / または 100–109 | 145–159 / または 90–99 | より重度。生活習慣の改善とともに薬物療法の検討が必要 |
Ⅲ度高血圧 | ≧180 / または ≧110 | ≧160 / または ≧100 | 非常に高く、すぐに治療が必要なレベル |
収縮期高血圧 | ≧140 / <90 | ≧135 / <85 | 「上だけ高い」タイプ。高齢者に多く、血管の硬化が関係している |
「高値血圧(130/80~)」はもはや「正常」とは言えない段階とされている。

血圧が130でも心血管リスクが高くなるんだね。
疾患別の降圧目標(JSH2019より)
✅一般的な目標
年齢 | 診察室血圧の目標 | 家庭血圧の目標 |
75歳未満 | 130/80 mmHg | 125/75 mmHg |
75歳以上 | 140/90 mmHg | 135/85 mmHg |
✅疾患別の詳しい目標
病気・状態 | 診察室血圧の目標 | 主な注意点・補足 |
冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞など) | 130/80 mmHg未満 | 下の血圧が80未満でもOK(気にしなくてよい) |
蛋白尿ありの慢性腎臓病(CKD) | 130/80 mmHg未満 | 尿蛋白をできるだけ減らすことが大事 |
糖尿病 | 診察室: 130/80未満 家庭: 収縮期125未満 | 脳や心臓の病気の予防につながる |
抗血栓薬を内服中 | 130/80 mmHg未満 | 高血圧だと脳出血リスク↑なので厳格管理が必要 |
HFpEF(駆出率保たれた心不全) | 収縮期130 mmHg未満 | 入院を防ぐために血圧をしっかり管理 |
HFrEF(駆出率低下の心不全)や心筋梗塞後 | 一概に決まっていないが 110~130 mmHgが目安 | ACE阻害薬、β遮断薬などでの治療が基本 状態に応じてさらに低い血圧を目指すことも |
脳卒中や脳出血の既往あり | 原則: 130/80 mmHg未満 ただし一部例外あり | 頸動脈の狭窄や閉塞がある場合は 140/90 mmHg未満とすることも |
75歳以上の高齢者で他の病気もある | まずは140 mmHg未満 元気なら130 mmHg未満も目指す | 無理せず様子を見ながら調整 |
フレイル(虚弱)高齢者・要介護者 | 個別に判断 | 状態に応じて調整が必要 |
認知症がある高齢者 | 下げすぎに注意(130未満を大きく下回らない) | 血圧が低すぎると認知機能に悪影響を及ぼす可能性あり |
動脈が狭い、血圧変動が大きい人(起立性低血圧・食後低血圧など) | 個別に判断 | 降圧薬の量やペースを慎重に調整 |

こういう疾患別の目標値が書かれたものを見ながら患者さんに応じた服薬指導をしている人もいるよ。
- 多くの疾患で「130/80 mmHg未満」が基本の目標。
- 高齢者や特別な状態(認知症、虚弱、血管狭窄など)では、血圧の下げすぎに注意。
- 家庭血圧では、より厳しめ(例:糖尿病では125未満)に設定されることも。
家庭血圧の重要性
- 診察室より家庭血圧のほうが病気リスク予測に有効
→高血圧の診断において家庭血圧が優先されている。 - 白衣高血圧や仮面高血圧の判別にも役立つ

この辺も服薬指導に役立ちそうだね。
血圧計はどれを選べばいい?【JSH2019に基づく推奨まとめ】
高血圧治療や予防の第一歩は、「正確な血圧測定」にある。
日本高血圧学会の治療ガイドライン(JSH2019)では、家庭用・医療機関用ともに、血圧計の選び方について明確な推奨が示されている。以下にそのポイントを簡潔にまとめる。
推奨されるのは「上腕式電子血圧計」
- 一般家庭では、上腕に巻いて測るタイプの電子血圧計が最も推奨されている。
- 国内で販売認証(医療機器認証)を受けた製品を選ぶことが望ましい。
👉 「管理医療機器」「家庭用血圧計」などの表示があるものを選ぶと安心である。
医療機関での使用には?
- 上腕式の医療用電子血圧計が継続使用に適している。
- 聴診法での測定が必要な場合は、
- 電子圧力柱式血圧計(擬似水銀)
- アネロイド血圧計
が水銀血圧計の代替として推奨されている。
自動血圧計のメリットとは?
自動タイプの血圧計は以下の点で優れている:
- 測定手技に熟練を要さない
- 測定者の癖やバラつきが出にくい
- 脈拍数も同時に測定可能
- 自動で記録されるため、報告ミスの防止にも有効
- 測定値が経年劣化しにくく、信頼性が長持ちしやすい
⚠️ 手首式血圧計は注意が必要
- 手首で測るタイプの血圧計は測定値が不正確になりやすい。
- 特に位置や姿勢によって誤差が出やすいため、上腕式の方が信頼性が高い。
家庭血圧計は医療機器として重要
- 家庭血圧計は薬局や家電量販店などで手軽に購入できる。
- しかし、高血圧の診断・治療に用いる重要な医療機器であることを理解し、
- 取扱説明書に従って正しく使用すること
- 測定条件(時間帯、姿勢など)を一定にすること
が非常に大切である。
血圧計を選ぶときは、「上腕式・国内認証あり・自動記録可能」な製品を選ぶことが基本である。手首式は使いやすさはある、正確性に不安があるため、注意が必要である。日々の血圧測定が高血圧の早期発見・予防につながるため、自分に合った信頼できる血圧計を選びたい。
血圧を測るタイミング
朝の測定
- 起きてから1時間以内に測る
- トイレに行ったあと、朝の薬を飲む前、朝ごはんを食べる前がベスト
- 椅子に座って1~2分落ち着いてから測る
※特に、薬を飲む前の血圧は、薬の効き目が1日持っているかを調べるのに大事
晩の測定
- 寝る前に測る
- 座って1~2分安静にしてから測る
場合によっては、次のタイミングにも測る
- 夕食の前
- 夜の薬を飲む前
- お風呂に入る前
- お酒を飲む前
1.生活習慣(食事・入浴・飲酒など)の影響を見るため
2.薬の効き方(朝から晩まで効いているか)を確かめるため
たとえば
- 夕食前 → 食事で数値が変わる前に測ると、正しい値がわかる。
- 晩の薬を飲む前 →薬の効果を見るために、飲む前の値をチェックする。
- 入浴前・飲酒前 → 血圧が下がる前の値を知る
測る回数
- 1回の測定タイミングで2回測って、平均をとるのが基本
- どうしても1回しか測れなかった場合は、その1回でもOK
- 自分の判断で3回測った場合は、3回の平均でもOK
- 4回以上測るのはすすめられていない。(長く続けるのが大変になるため)
どの測定値も、良い・悪い関係なくすべて記録するのが大切。
血圧の診断や、薬の効き具合を見るには、
7日間(最低5日間)の朝と晩の血圧の平均を使う
降圧薬を飲み忘れた場合は?
お薬を飲み忘れたら ─かかりつけ医に相談するのが原則
降圧薬の飲み忘れに対する一般的な対応の目安
1日1回服用の場合
朝食後飲み忘れ→寝るまでに気づいたら服薬する
1日2回服用の場合
朝食後飲み忘れ→昼から夕方までに服薬し、夕食後の分は就寝前に服薬する。
夕食後飲み忘れ→寝るまでに気づいたら服薬する。
1日3回服用の場合
朝食後飲み忘れ→昼までに気づいたら服薬し、昼の分は夕食後、夕の分は就寝前に服薬する。
昼食後飲み忘れ→夕食までに気づいたら服薬し、夕食後の分を就寝前に服薬する。
夕食後飲み忘れ→寝るまでに気づいたら服薬する
これまでは、1日1回朝食後に服用する薬を飲み忘れた場合、昼ごろまでに思い出せば服用し、それ以降はその日の分を飛ばすように説明していた。
しかし、武田薬品のホームページを確認したことで、その説明を見直す必要があると感じた。
血圧が下がっても薬をやめないで!高血圧治療の大切なポイント
高血圧の治療は、「症状がないから大丈夫」と思ってしまいやすい病気である。
しかし、自己判断で薬をやめたり減らしたりすると、重大な病気につながることがある。
以下に、降圧薬を自己中止・減量してはいけない理由と、適切な対応のポイントを簡潔にまとめる。
❌ 降圧薬を勝手にやめるのはNG
- 降圧薬で血圧が下がっても、「治った」とは限らない。
- 多くの場合、薬によって血圧がコントロールされている状態。
- 自分の判断で薬を中止・減量すると、血圧が再上昇し、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる恐れがある。
👩⚕️ 薬をやめたいときは医師に相談を
- 副作用が心配なとき
- 血圧が下がりすぎたと感じたとき
- 服薬を忘れたとき
➡いずれも、自己判断ではなく、かかりつけ医に相談することが大切。
血圧が下がっても、薬を勝手にやめてはいけない。
高血圧は「コントロールする病気」であり、治ったかのように見えても、薬で管理されているだけのことが多い。
まとめ
- 高血圧の基準は、年齢や他の病気の有無によって異なる。
- 家庭で使う血圧計は、上腕式の電子血圧計が推奨されている。
- 血圧は、1回の測定タイミングで2回測り、平均値をとるのが基本である。
- 1日1回朝食後に飲み忘れた場合は、寝るまでに気づいたら服用する
- 血圧が下がってきても、自己判断で薬を中止するのはNG。
→ 中止すると血圧が再び上がり、合併症(脳卒中・心筋梗塞など)のリスクが高まる。
今回は、現場でよく聞かれる質問を中心に、ガイドラインやメーカーの公式情報をもとに、基本的な内容を丁寧にまとめました。
「当たり前のことばかりかもしれない」と感じられるかもしれませんが、確かな情報に基づいて対応することが、患者さんの安全を守る第一歩だと考えています。
皆さんの日々の業務に少しでもお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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