「コンタクトをしたまま目薬をさしてもいいですか?」
薬局でよく聞かれる質問のひとつです。特に、眼科の隣にある薬局では毎日のように相談されます。
私が以前勤めていた薬局では、近隣の眼科医から「このように説明してください」と具体的な指導があり、それに従って点眼指導をしていました。でもふと、「この説明って本当に正しいのかな?」「他のケースではどうなんだろう?」と気になることもありました。
そこで今回は、以下の3つのポイントについて分かりやすく整理しました。
- 公的なガイドラインや眼科医の見解
- コンタクトレンズと点眼薬(特に防腐剤)の関係
- 薬ごとの使用可否(添付文書・メーカー情報を基に)
コンタクトレンズの種類と使用状況
日本でコンタクトレンズを使っている人は全体の約2割弱。中でも人気が高いのは「1日使い捨てタイプ」のソフトコンタクトレンズだ。
- 1日使い捨て:42.3%
- 2週間 or 1ヶ月交換タイプ:24~25%
- ハードコンタクトレンズ:24~25%
近年では「ハードコンタクトレンズ」はやや減少傾向である。
▶️ 参考:マイボイスコム調査 2023年
近隣の眼科医の説明
15年前の話ではあるが、私が以前働いていた薬局の近くにある眼科では、コンタクトの種類に応じて以下のような説明がされていた。
- ハードコンタクト:そのまま点眼してOK
- 1日使い捨てソフトコンタクト:そのまま点眼してOK
- 2週間交換のソフトコンタクト:一度レンズを外して点眼。10分後にもう一度つけてよい
日本眼科医会の見解
公的な機関はどのように言っているのか調べた。
日本眼科医会での説明では
基本は目薬はコンタクトを外してからさすものである。
コンタクトをつけたまま、どうしても目薬をさしたいとき(目のかわきなどが気になるとき)は、いくつか気をつけることがある。
✅ 注意すべき4つのポイント
- 防腐剤なしの目薬を選ぶ
→「1回使い切りタイプ」がおすすめ。 - 防腐剤が入っている場合は“塩化ベンザルコニウム(BAK)”の有無を確認
→ 詳細は次の章で説明する。 - レンズはこまめに交換する(特にワンデイタイプがおすすめ)
- ハードコンタクトレンズなら点眼できるものもある
ただしこれはあくまで「ドライアイなどの乾燥対策」としての使用。
感染症や緑内障などの治療目的で目薬を使う場合は、コンタクトの使用を避けるのが原則。
また緑内障など長期の点眼治療が必要なコンタクトレンズ使用者はコンタクトレンズを外した状態で目薬をさすのが良い。

1日1回点眼の場合
朝コンタクトをつける前や夜コンタクトを外した後に刺すのが良いよ。
塩化ベンザルコニウム(BAK)って何?
先ほど触れた塩化ベンザルコニウム。
添付文書の成分のところにはベンザルコニウム塩化物と書かれてある。
同じものであるが、ここでは塩化ベンザルコニウムと統一して表記していく。
▶️ メリット
- 強力な抗菌作用(低濃度で細菌の増殖を防ぐ)
- 多回使用容器(マルチドーズ)に適している
- 成分として安定しており、製造コストが低い
▶️ デメリット
- 角膜や結膜への刺激(長期使用で目に負担)
- アレルギーや角膜障害のリスク
- ソフトコンタクトレンズとの相性が悪い
→ レンズに吸着され、刺激が長時間持続する - レンズの変形の可能性(pH変化に弱い)
- 耐性菌のリスク(まれだが注意)
ソフトレンズを使っている方は、BAKが入っていない目薬を選ぶことが安心。
塩化ベンザルコニウムとコンタクトの関係
✅ 防腐剤がレンズに「くっついてたまりやすい」
目薬に入っている防腐剤(塩化ベンザルコニウム)は、ソフトコンタクトレンズにくっつきやすい性質がある。
すると、レンズの中に防腐剤がしみ込んで濃くなるので、目にとっては「防腐剤がいっぱい残っている」状態になる。
✅ 防腐剤が長く目にふれると、角膜が傷つくことも
レンズにくっついた防腐剤は、何時間も角膜(目の表面)に触れることになるので、目の表面に傷や炎症が起こる原因になることがある。
✅ 液の性質によっては、レンズが変形することも
ソフトコンタクトレンズは、水分を多く含む柔らかい素材でできている。そこに酸性またはアルカリ性が強すぎる点眼薬が付着すると、レンズの水分バランスが崩れ、膨張や収縮を起こすことがある。その結果、レンズが変形するおそれがある。
特に高含有性レンズは水分が多いぶん、「塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤も吸着しやすくなる」性質があるので注意が必要。
コンタクトレンズには水が含まれていて、その水分の割合(含水率)が高いものを「高含有性レンズ」と呼ぶ。
一般的には含水率が50%以上のものがこれに当たる。
薬剤ごとの点眼とコンタクト
コンタクトをしたまま点眼して良いのか、添付文書とメーカーのホームページをもとに各点眼ごとにまとめていく。はっきりと記されているものだけを記載した。
抗菌薬
細菌による目の感染症があるときにコンタクトを使い続けると、治療のさまたげになることがある。
よって原則としてソフト、ハード問わずコンタクトレンズを外して点眼する。
クラビット点眼液
防腐剤は含まないが、主成分などがソフトコンタクトレンズ内に中にたまって、レンズや目に影響を与えることがある。
基本的に、ソフト・ハードを問わずコンタクトは外して点眼し、5~10分ほどしてから再装着する。
オゼックス点眼液
ソフトコンタクトレンズに付着し、レンズが白濁するとの報告がある
抗アレルギー薬
アレルギー性結膜炎の治療中は、症状の悪化を防いだり、アレルギーの原因になるもの(抗原)を避けたりするために、基本的にはコンタクトレンズの使用をやめることがすすめられている。
アレジオン点眼液 アレジオンLX点眼液
アレジオン点眼は防腐剤としてリン酸水素ナトリウム+ホウ酸が含まれている
アレジオンLX点眼液は防腐剤は含まれていない。
医師が「つけたまま点眼しても大丈夫」と判断した場合には、アレジオン点眼液やアレジオンLX点眼液は、ハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズを入れたままでも使えるとされている。
アレジオン点眼液は、実際にソフトレンズをつけている時に点眼し、有効性や安全性が確認された報告がある。
パタノール点眼液
塩化ベンザルコニウム含
ソフトコンタクトレンズに吸着されることがあるので、コンタクトを外して点眼し、10分以上経過後、再装着する。
ゼペリン点眼液
塩化ベンザルコニウムは含まれていないがパラベン類やクロロブタノールという防腐剤含
基本的に、ソフト・ハードを問わずコンタクトは外して点眼し、5~10分ほどしてから再装着する。
リボスチン点眼液
塩化ベンザルコニウム含
点眼後は5~10分ほどしてから再装着する。
リボスチン点眼液は懸濁性(液体に粒が混ざっている)のでレンズや角膜に影響する可能性がある。
コンタクトレンズへの安全性について十分な検討はされていない。
リザベン点眼
塩化ベンザルコニウム含
点眼後は5~10分ほどしてから再装着する。
コンタクトレンズへの安全性について十分な検討はされていない。
ドライアイ治療薬
コンタクトレンズを使うことは、ドライアイや目の表面(角膜や結膜)を傷つける原因になることがある。そのため、こうした目の病気の治療中は、症状を悪化させないように、コンタクトレンズの使用をやめるのが基本である。
ジクアス点眼液 ジクアスLX点眼
ジクアス点眼液では防腐剤としてクロルヘキシジングルコン酸塩、ジクアスLX点眼液は防腐剤として硝酸銀が配合されている。塩化ベンザルコニウムよりも角膜障害をおこしにくいと言われている。
医師が「つけたまま点眼しても大丈夫」と判断した場合には、ジクアス点眼やジクアスLX点眼は、ハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズを入れたままでも使えるとされている。
ジクアス点眼液は、実際にソフトレンズをつけている時に点眼し、有効性や安全性が確認された報告がある。
ヒアレイン点眼液
医師が「つけたまま点眼しても大丈夫」と判断した場合には、ヒアレイン点眼は、ハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズを入れたままでも使えるとされている。
ヒアレインミニ点眼液
防腐剤は含まれていない。
原則はコンタクトを外してから点眼ではあるが、一部の患者さんではコンタクトレンズをつけたまま治療しても問題ないと考えられている。
以下の理由から、コンタクトレンズをつけたままの使用が可能である
- 保存剤を含まない。
- ソフトコンタクトレンズの性質(やわらかさや透明さなど)に影響を与えなかった(in vitro試験)。
- コンタクトレンズを使用している人を対象とした臨床試験の結果に基づき承認されている。
なお、ヒアレインミニ点眼液の保険適用は「シェーグレン症候群」または「スティーブンス・ジョンソン症候群に伴う角結膜上皮障害」に限られている。
ムコスタ点眼
防腐剤は含まれていない
レバミピドは、ソフトコンタクトレンズに吸着することがある
緑内障治療薬
キサラタン点眼液
塩化ベンザルコニウム含
コンタクトレンズを変色させることがあるため、点眼前に外し、15分以上経過後に再装着する。
ルミガン点眼液
塩化ベンザルコニウム含
防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着するおそれがあるため、点眼前に取り外し、15分以上経過後に再装着する。
グラナテック点眼液
塩化ベンザルコニウム含
防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着するおそれがあるため、点眼前に取り外し、5分以上経過後に再装着する。
デタントール点眼液
ベンザルコニウム塩化物含
防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着するおそれがあるため、点眼前に取り外し、5~10分ほどしてから再装着する。
エイベリス点眼液タプコム点眼タプロス点眼
塩化ベンザルコニウム含
基本的に、ソフト・ハードを問わずコンタクトは外して点眼し、5~10分ほどしてから再装着する。
ただし、目の状態に問題がなければ、ハードコンタクトを入れたままでも点眼できるとされている。
防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着するおそれがあるため、点眼前に取り外し、5~10分ほどしてから再装着する。
エイベリスミニタプロスミニ
防腐剤を含まない
基本的に、ソフト・ハードを問わずコンタクトは外して点眼し、5~10分ほどしてから再装着する。
ただし、目の状態に問題がなければ、ハードコンタクトを入れたままでも点眼できるとされている。
チモプトールX E点眼液
ベンゾドデシニウム臭化物という防腐剤が含
基本的に、ソフト・ハードを問わずコンタクトは外して点眼。
チモプトールXE点眼後のコンタクトレンズへの影響は不明
ジェランガム製剤:目に刺すと液がゼリー状になり、長くとどまる
平均消失半減期が約18分であるためコンタクトレンズをつけ直すには点眼後30分以上(できれば1時間)あける
ミケランLA点眼液
塩化ベンザルコニウム含
コンタクトレンズをつけたまま点眼した場合の有効性および安全性は確認されていない。そのため、点眼前にレンズを外し、点眼後は20分以上経過してから再びつけることが望ましい。
白内障治療薬
ピレノキシン
塩化ベンザルコニウム含
原則としてソフト、ハード問わずコンタクトレンズを外して点眼し、点眼後は少なくとも5~10分間を空けてからコンタクトをつけ直す。
ただし、目の状態に問題がなければ、ハードコンタクトを入れたままでも点眼できるとされている。
抗炎症薬
フルメトロン点眼液
塩化ベンザルコニウム含
基本的に、ソフト・ハード問わずコンタクトは外して点眼し、5〜10分ほどしてから再装着する。
フルメトロン点眼液は懸濁性点眼液であり、懸濁粒子による影響(薬や粒がコンタクトや目に負担をかけるおそれがある)に注意が必要。
コンタクトレンズへの安全性について十分な検討はされていない。

上記のメーカーのQ&Aは勉強になるよ!
塩化ベンザルコニウム の有無 | コンタクトへの影響 | 点眼後 再装着までの時間 | |
クラビット点眼 | 無 | 主成分などがソフトコンタクトレンズ内に中にたまる | 5~10分 |
オゼックス点眼 | 無 | ソフトコンタクトレンズに付着し、レンズが白濁する | − |
アレジオン点眼液 | 無 | 医師がOKすれば、ハードでもソフトでもコンタクトの上から点眼可能 | − |
アレジオンLX点眼液 | 防腐剤フリー | 医師がOKすれば、ハードでもソフトでもコンタクトの上から点眼可能 | − |
ゼペリン点眼液 | 無 | ハード、ソフトを問わず、いずれのコンタクトレンズも外して点眼 | 5~10分 |
パタノール点眼液 | 有 | ソフトコンタクトレンズに吸着されることがある | 10分以上 |
リボスチン点眼液 | 有 | 懸濁性なので、レンズや角膜に影響を及ぼす可能性あり | 5~10分 |
リザベン点眼液 | 有 | コンタクト装着時の安全性は十分に検討されていない | 5~10分 |
ジクアス点眼液3% | 無 | 医師がOKすれば、ハード、ソフト関わらずコンタクトレンズをつけたまま点眼可能 | − |
ジクアスLX点眼3% | 無 | 医師がOKすれば、ハード、ソフト関わらずコンタクトレンズをつけたまま点眼可能 | − |
ヒアレイン点眼液 | 無 | ハード、ソフト関わらずコンタクトレンズをつけたまま点眼可能 | − |
ヒアレインミニ点眼液 | 防腐剤フリー | 影響無し ハード、ソフト関わらずコンタクトレンズをつけたまま点眼可能 | − |
ムコスタ点眼液UD2% | 防腐剤フリー | レバミピドがソフトコンタクトに吸着することあり | − |
キサラタン点眼液 | 有 | コンタクトレンズを変色させる恐れあり | 15分以上 |
ルミガン点眼液 | 有 | 防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着しやすい | 15分以上 |
グラナテック点眼液 | 有 | 防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着しやすい | 5分以上 |
デタントール点眼液 エイベリス点眼液 タプロス点眼液 タプコム点眼液 | 有 | 防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着しやすい | 5~10分 |
エイベリスミニ タプロスミニ | 防腐剤フリー | コンタクトレンズへの影響は不明 | 5~10分 |
チモプトールXE点眼液 | 無 | コンタクトレンズへの影響は不明 | 30分以上(できれば1時間) |
ミケランLA点眼液 | 有 | コンタクトレンズへの影響は不明 | 20分以上 |
ピレノキシン点眼液 | 有 | 条件付きでハードコンタクトであればそのまま点眼可能 | 5~10分 |
フルメトロン点眼液 | 有 | 懸濁粒子による影響 | 5~10分 |
薬剤師として押さえておきたいポイント(まとめ)
- 目薬の種類とコンタクトの相性を確認すること
→ 添付文書の「使用上の注意」に記載されているか確認 - 防腐剤の有無に注目すること
→ 防腐剤なしタイプはコンタクト使用中でも比較的安全 - 可能であれば、点眼はコンタクトを外した状態で行うこと
- 1日1回の点眼薬は「朝レンズを入れる前」または「夜外した後」に使うと◎
「この目薬、コンタクトしたままでも大丈夫ですか?」という質問には、薬剤や防腐剤の有無・レンズの種類によって答えが変わります。
薬剤師として、自信をもってアドバイスできるように、添付文書やガイドラインをきちんと確認しておくことが大切です。
本記事が、日々の点眼指導に少しでも役立てばうれしいです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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