リリカもタリージェも神経の痛みによく効く薬として最近処方される事が多いです。ロキソニンなどのNSAIDsでは効かなかった神経痛に効果がある薬として、発売当初から話題になり、現在でも処方頻度が高い薬です。ただ眠気など副作用にも注意を払わなきゃいけない薬でもあります。そこで今回は改めてリリカやタリージェがどのように効果を発揮するのかを図を使って解説し、さらに二つの薬の共通点相違点をまとめていきたいと思います。
- リリカ/タリージェの作用機序
- リリカ/タリージェの違い
- 副作用について
- 実際の使用状況と私見
神経障害性疼痛とは
リリカもタリージェも神経痛、正確にいうと「神経障害性疼痛」に効果を示す。
神経障害性疼痛とは神経が傷ついたり異常をきたしたりすることで起こる痛みである。通常のケガや炎症による痛みとは違い、神経そのものが原因で、ピリピリ、ズキズキ、電気が走るような感覚が特徴。
糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、坐骨神経痛などに効果を示す。
痛みの機序とリリカ/タリージェの作用点

皮膚や筋肉などにある受容体が怪我や炎症などで刺激される。
この刺激が電気信号となって末梢神経を通って脊髄に向かう。
痛みの信号は、脊髄後角に届く。
ここは脳に痛みを伝える前の中継所である。
神経終末から神経伝達物質(グルタミン酸など)が放出される。
この物質が次の神経に伝わり、痛みの信号が脳へと上がっていく。

脊髄後角のリリカ/タリージェが作用する部分(✖️がついている所)を拡大すると
痛みが起こっているとき

リリカ/タリージェが結合すると

リリカ/タリージェはこの神経終末にある電位依存性カルシウムチャネルにくっつく。その結果、カルシウムイオンが神経に入りにくくなる。つまり、神経伝達物質があまり出なくなり、脳への痛み信号が弱まる。患者さんは痛みが和らいだと感じる。
興奮性の神経伝達物質である。
神経終末からグルタミン酸が出ると、次の神経に痛み信号を送る。
それぞれの用法用量
リリカ
初期容量 1日150mgを分2で
1週間かけて1日300mgまで増やす。
神経障害性疼痛は1日最高600mg
繊維筋痛症は最高1日450mg
タリージェ
初期容量 1日10mgを分2で
1回5mgずつ1週間以上かけて増やし、1日30mg分2
神経障害性疼痛は1日最高30mg
リリカとタリージェの共通点
- 適応症が神経障害性疼痛
- 腎障害の人注意
- めまい、傾眠等副作用
- 急な中止により離脱症状が起こる事があるので徐々に減量して中止する
リリカとタリージェの相違点
- リリカの適応症に線維筋痛症がある
- タリージェはα2δ-1に選択性がある
全身のあちこちに慢性的な痛みが出る病気。はっきりとした原因がなく、検査をしても目に見える異常が見つからないことが多いのが特徴。
タリージェはα2δ-1に選択性があるのでリリカよりも眠気が少ない可能性が高い。
これは今回のメインに書きたかったことの一つ。
先ほどリリカ/タリージェは電位依存性のカルシウムチャネルにくっつくと書いたが、正確にはα2δ-1に結合する。
α2δ-1とは
先ほどリリカ、タリージェの作用機序で出てきた電位依存性カルシウムチャネルにはいくつかパーツがある。
本体(主ユニット)と補助パーツ(サブユニット)でできている。
主ユニット(α1):カルシウムが通る通り道
補助ユニット(α2δ・β・γなど):本体を安定させたり、働きやすくする部分
α2δ-1があることでこのカルシウムチャネルが働きやすくなる。
リリカやタリージェが結合するのはこの補助パーツの「α2δ-1」部分だけで α1(カルシウムが通る本体部分)には直接結合しない。
このα2δ-1にリリカ、タリージェは結合し、電位依存性のカルシウムチャネルの働きが弱まり、神経から痛みの原因となるグルタミン酸などが放出されなくなり、痛みが和らぐ。
この時タリージェはα2δ-1に選択性が強いが、リリカはα2δ-1とα2δ-2両方に作用されると言われている。
α2δ-2とは
α2δ-1は脊髄後角などに多く存在するが、α2δ-2は小脳等に多く存在している。
α2δ-2は運動機能に関係すると言われ、遮断すると眠気やふらつきが出る。
α2δ-1:痛みに関係するサブユニット
α2δ-2:副作用(特に眠気やふらつき)に関係する
以下にα2δ-1とα2δ-2の結合についてタリージェのインタビューフォームに書かれていたのでまとめた。
ヒトの神経細胞の一部(α2δ-1 や α2δ-2 サブユニット)に対して、
タリージェとリリカがどのくらいくっつきやすいか(=親和性)
どれくらい早く離れるか(=持続時間)を調べている。
重要な指標
パラメータ | 意味 | 値が小さいと… |
Kd(結合定数) | どれくらい薬がくっつきやすいか | くっつきやすい(親和性が高い) |
解離半減期(hr) | 半分の薬が外れるのにかかる時間 | くっついている時間が短い |
サブユニット | 薬剤 | Kd(nmol/L) | 解離半減期(hr) |
α2δ-1(ヒト) | タリージェ | 13.5 | 11.1 |
α2δ-1(ヒト) | リリカ | 62.5 | 1.4 |
α2δ-2(ヒト) | タリージェ | 22.7 | 2.4 |
α2δ-2(ヒト) | リリカ | 125.0 | 1.4 |
タリージェvs リリカ
- Kd(親和性)
タリージェ:13.5nmol/L、リリカ:62.5nmol/L
→ タリージェの方がよくくっつく(親和性が高い) - 解離半減期(くっついている時間)
タリージェ:11.1時間、リリカ:1.4時間
→ タリージェの方が長くくっついて効果が続く
タリージェは「効きが長く、選択性も高い」である。
一方、タリージェにおいて、ヒトα2δ-2(副作用に関わるとされる)に対しては、Kd値22.7 nmol/L、解離半減期2.4時間であり、α2δ-1に比べて結合が弱く、持続時間も短い。
→ つまり、痛みに関係する部位にはしっかり結合し、ふらつきなどの副作用に関係する部位にはあまり結合しないため、効果がしっかりありつつ、副作用が出にくい薬剤であると期待されている。
リリカは、ヒトα2δ-2サブユニットに対して、Kd値125.0 nmol/L、解離半減期1.4時間というデータがある。これは、タリージェと比較して結合が弱く、短時間で解離することを示している。この数値だけを見ると、リリカの方が副作用が起こりにくいように思える。
しかし、副作用の発現においてより重要なのは、結合の強さや持続時間ではなく、「どこに作用するか(=選択性)」である。
リリカは、α2δ-1(鎮痛に関与)とα2δ-2(副作用に関与)の両方に対して、大きな差なく弱く結合する。すなわち、結合の選択性が低く、本来作用してほしいα2δ-1だけでなく、副作用の原因となるα2δ-2にも作用してしまう可能性がある。そのため、結果的にリリカの方が副作用が出やすい可能性がある。

Kd値(結合のしやすさ)を見るとリリカのα2δ-1とα2δ-2の差があるように見えるけど、α2δ-1とα2δ-2の両方に対して、大きな差がないって言っていいの?
Kd値(薬がどれくらい結合しやすいか)を見ると、α2δ-1は62.5 nmol/L、α2δ-2は125.0 nmol/Lである。
この値は小さいほど結合しやすいことを意味しており、つまりα2δ-1のほうが約2倍結合しやすいということになる。
しかし、薬理学的に「選択性がある」と判断されるには、少なくとも10倍以上の差が必要とされており、この程度の差では選択性があるとは言えない。
次に、解離半減期(どれくらいの時間くっついているか)を見てみると、α2δ-1もα2δ-2もどちらも1.4時間と、差はない。
つまり、「最初にどちらにくっつきやすいか(Kd値)」には少し違いがあるものの、一度くっついた後は、どちらにも同じようにとどまって作用すると考えられる。
さらに、リリカはバイオアベイラビリティ(体への吸収率)が高く、血中濃度が上がりやすい薬である。
そのため、たとえα2δ-2のような「くっつきにくい場所」であっても、血中に薬が十分に存在すれば作用してしまう可能性がある。
実際の使用状況と私見
リリカもタリージェもよく処方されている。
私の勤めている薬局では最近新規で処方されるのはタリージェの方が圧倒的に多い。ただ、今までリリカが処方されていた人が変更になってタリージェになるというケースはあまり見ない。そのまま継続されていることが多い。
タリージェは副作用がリリカよりも起こりにくい可能性が高いと言われているが、実際はタリージェでもかなりの頻度で眠気が出ている印象にある。
添付文書上ではリリカはめまい、傾眠は20%以上、タリージェはめまい、傾眠は頻度不明となっている。
効果はすごくあるんだけど、眠たくて仕事にならないから泣く泣く減らすというケースをよく聞く。離脱まではいかないが、減量するケースは多い。初期容量の1回5mg、1日2回で継続パターンも数名いる。
またある整形外科では1週間ごとに増やしたり減らしたりしてちょうど良い量を探るというパターンもある。
どの薬でも副作用は個人差があるが、このリリカ、タリージェも本当に個人差が多いと感じる。
一緒に働いていた薬剤師が、リリカが発売された当初に服用した。その感想を聞くと、夜中トイレに起きた時にフラフラで大変たっだからもう飲みたくないと言っていた。なので最初はリリカのイメージが悪かった。確かに同じような副作用の人は何人かいた。しかし他の薬では効かなかったのにリリカを飲んだら痛みがなくなって良かったというポジティブな意見が多かった。さらには全く眠たくない人もいて最高容量の600mgとまではいかないが450mg(さらにトラマールも服用している)を問題なく服用している。
飲んでみないとわからないので初めて服用する患者さんには必ず眠気、ふらつきの副作用を伝えすることが必要だ。

眠気やふらつきは飲んでいるうちに慣れてくるっていうけど、どれくらいで慣れてくるの?

個人差はあるけど2-3日で慣れてくるよ。(開始時、増量時)
【参考文献】

リリカ、タリージェはどれくらいしたら効いてくるの?

個人差はあるけど数日から1週間で効いてくるよ。
定常状態になると効果が安定してくる。
そして薬が神経の興奮をおさえるには、少しずつ神経のバランスを整えていく必要があるため、さらに時間がかかり効果を感じるのに1週間ほどかかる。
薬を毎日きちんと飲み続けたときに、血液の中の薬の量が安定してくる状態
リリカは定常状態になるまで1-2日かかる
タリージェは定常状態になるまで3日かかる。
これは添付文書に書かれてある。
服薬指導例

リリカ/タリージェはビリビリ、ズキズキといった神経痛に効くお薬です。
痛み止めといってもロキソニンのような炎症を抑える薬ではなく、神経そのものの興奮を抑える薬です。そのため飲み始めてすぐに効くというよりは数日から1週間かけて徐々に効果が出てきます。
眠気やふらつきが起こることがありますが、飲み始めに多く、飲んでいるうちに慣れてくることが多いです。
急にやめると頭痛、不眠、不安感等が起こることがあるので痛みが良くなったとしても勝手にやめず、先生に相談しながら減らして下さい。
まとめ
比較項目 | リリカ | タリージェ |
適応症 | 神経障害性疼痛、線維筋痛症 | 神経障害性疼痛のみ |
主な結合部位 | α2δ-1およびα2δ-2 | 主にα2δ-1に選択的に結合 |
持続時間 | 短め(1.4時間) | 長め(11.1時間) |
副作用の傾向 | 眠気・ふらつきが出やすいことがある | 比較的出にくいとされるが個人差あり |
初期投与量 | 1日150mg(分2)から開始 | 1日10mg(分2)から開始 |
離脱症状 | 急な中止で頭痛・不眠などが出ることがある | 同様に注意が必要 |
- タリージェはリリカよりも眠気等が起こりにくく、作用が長続きする。
- どちらも「即効性がある薬ではなく、徐々に効いてくる薬」であることを、患者さんへの指導時に丁寧に伝えることが大切。
- 副作用に関しても個人差が非常に大きく、「飲んでみないと分からない」という点をふまえ、慎重な導入と丁寧なフォローアップが求められる。
以上リリカとタリージェの特徴についてまとめました。
神経障害性疼痛は、見た目では分かりづらく、本人しかわからないつらさがある痛みです。
その痛みに対して、リリカやタリージェのような神経に働きかける薬が登場したことは、大きな前進でした。
一方で、「効くけれど副作用も出やすい」という特徴も持つため、薬剤師としては「効果と副作用のバランス」をしっかり見極め、患者さん一人ひとりに合ったサポートが必要です。
今回ご紹介したリリカとタリージェの共通点、相違点を知っておくことで、患者さんへの説明がより具体的になり、不安の軽減にもつながるのではないでしょうか。
副作用が心配な患者さんには「飲み始めは眠気が出やすいけれど、数日で慣れることも多いですよ」といった前向きな声かけを添えるだけでも、安心して服用を継続してもらえることがあります。
これからも、日々の服薬指導の中で、薬の特徴だけでなく、実際の患者さんの声や反応もふまえたアドバイスを届けていけたらと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも皆さまの業務や指導に役立てば嬉しいです。
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