週に2回貼付の認知症治療薬が2025年5月に発売になりました。
- 今までの毎日貼付するタイプと効果は同じ?
- 剤形の特徴は?
- 切断は?
- 剥がれてきた時の対応は?
認知症貼付剤が最近立て続けに発売されました。
高齢者の数が増えており、処方量が増えていきそうです。
この記事では認知症貼付薬の剤形、用法、適応、効果等の共通点と相違点、貼付薬なら気になる切断、剥がれた時の対処方法を解説します。
最後まで読んで頂いたら、患者さんやその介護者からのご質問に適切にお答えできるようになります。
アルツハイマー型認知症はどうやって起こる?

アルツハイマー型認知症は、簡単にいうと「脳のゴミ掃除がうまくいかなくなって起こる病気」です。
1. 脳にゴミ(アミロイドβ)がたまる
アミロイドβは脳細胞が毎日作り出す「ゴミ」のようなものです。 健康な人でも少しずつ作られますが、通常はすぐに掃除されて問題ありません。
しかし、アルツハイマー型認知症では、このゴミが大量に作られるうえに掃除が追いつかず、脳にどんどんたまっていきます。
2. 神経細胞の骨組み(タウタンパク)が壊れる
タウタンパクは神経細胞の「骨組み」を作る大切な材料で、細胞の形を保つ重要な部品です。
アミロイドβの毒性や加齢による品質管理の低下により、このタウタンパクが異常な形に変化して固まってしまいます。
3. 重要な神経細胞が破壊される
記憶や学習に欠かせない「アセチルコリン」を作る神経細胞があります。これらはマイネルト基底核、中隔核、ブローカ対角帯という脳の領域に存在します。
アミロイドβがたまり、タウタンパクが変形することによって、マイネルト基底核、中隔核、ブローカ対角帯が破壊されます。
4. アセチルコリンが減ると他の脳の部分の細胞も死んでしまう
アセチルコリンを作る細胞が壊れると、アセチルコリンが不足します。
アセチルコリンは脳の中で「連絡係」のような働きをしています。脳の細胞同士が情報をやり取りするときに必要な物質で、特に脳の細胞同士が元気に生きていくためにも欠かせません。
アセチルコリンが不足すると大脳皮質(考える力を司る)や海馬(記憶の中枢)の神経細胞が死んでしまいます。
5. 脳が縮む(脳萎縮)
最終的に脳全体の神経細胞が減ることで、脳が小さくなる「脳萎縮」が起こり、様々な認知症状が現れるのです。
アルツハイマー型認知症は頭頂葉と側頭葉が萎縮する

側頭葉(記憶の中枢)の症状
側頭葉には記憶を司る「海馬」があり、ここが最初に萎縮するため、記憶の症状が初期から現れます。
記憶障害
- 同じことを何度も聞く
- 昨日の出来事を覚えていない
- 新しいことが覚えられない
言語障害
- 言いたい言葉が出てこない
見当識障害
- 今日が何日かわからない
- 今いる場所がわからない
- 相手が誰かわからない
頭頂葉(動作の中枢)の症状
病気が進行すると頭頂葉も萎縮し、日常動作に関する症状が現れます。
動作の障害
- 服の着方がわからない
- 道具の使い方を忘れる
認識の障害
- 見えているのに何かわからない
- 知っている人の顔がわからない
- 今いる場所がわからず迷子になる
その他の症状
- 計算ができない
- 文字が書けない
📚参考 MCBI
筑波大学発のスタートアップ企業
作用機序

上記はアセチルコリンが放出される流れです。
アセチルコリンは、マイネルト基底核から大脳皮質へ、中隔核やブローカ対角帯からは主に海馬へ放出されています。

アセチルコリンは、コリンエステラーゼという酵素によって分解されます。
アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルやリバスチグミンは、アセチルコリンエステラーゼの働きを邪魔して、アセチルコリンが分解されにくくします。
その結果、アセチルコリンの量が増え、脳の神経細胞同士のやり取りがスムーズになり、記憶や思考などの働きを保つ助けになります。
剤形の特徴

経皮吸収型製剤の構造にはマトリックス型とリザーバー型があります。
マトリックス型はシンプルな構造で多くのものがこの構造。
リザーバー型は複雑な構造をしており、切断は絶対に不可。
この2つの剤形の違いについて詳しく知りたい場合はこちら。
貼付薬Q&A
イクセロンパッチ、アリドネパッチ、リバルエンLAパッチ全てマトリックス型
ただし
イクセロンパッチ、アリドネパッチは単層マトリックス型
リバルエンLAパッチは多層マトリックス型
という違いがあります。
多層マトリックス型はイメージとしては層になったバームクーヘンみたいな感じです。
何層にも重なっているので時間をかけてゆっくり効くような設計になっています。
単層マトリックス型 | 多層マトリックス型 | |
構造 | 1つの層に薬が均一分散 | 複数の層に薬を分散 |
放出 | 一定速度で短時間 | 時間差で長時間 |
貼付頻度 | 毎日(24時間毎) | 週2回(3-4日毎) |
各薬剤の特徴

リバルエンLAパッチ(リバスチグミン)
規格 | 25.92mg、51.84mg |
開始用量 | 25.92mg を週2回貼付 |
維持用量 | 51.84mg を週2回貼付 |
増量時期 | 原則として4週後に増量 |
貼付頻度 | 週2回(3~4日ごと) |
貼付時間 | 開始時は4日間貼付、その後3~4日ごと |
貼付部位 | 背部、上腕部、胸部 |
適応 | 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症 |
特徴的なポイント
🔸日本初の週2回投与
🔸投与間隔は4日または3日
アリドネパッチ(ドネペジル)
規格 | 27.5mg、55mg |
軽度~中等度 | 27.5mg を1日1回貼付 |
高度認知症 | 27.5mg で4週間以上経過後、55mg に増量 |
貼付頻度 | 毎日1回(24時間毎) |
貼付部位 | 背部、上腕部、胸部 |
適応 | アルツハイマー型認知症(軽度~高度) |
特徴的なポイント
🔸日本初のドネペジル貼付剤
🔸高度認知症にも適応
🔸経口薬3mg相当の開始用量なし
イクセロンパッチ/リバスタッチパッチ(リバスチグミン)
規格 | 4.5mg、9mg、13.5mg、18mg |
標準法 | 4.5mg→9mg→13.5mg→18mg(各4週間隔) |
1ステップ法 | 9mg→18mg(4週後に増量) |
維持用量 | 通常18mg |
貼付頻度 | 毎日1回(24時間毎) |
特徴的なポイント
🔸最も細かい用量調節が可能
🔸改良基剤で皮膚刺激軽減
剤形変更について
イクセロンパッチの基剤は、シリコン系→合成ゴム系への変更により、皮膚刺激を大幅に軽減しました。
「リバスタッチ」の新基剤製剤
臨床現場での使い分けのポイント

リバルエンLAパッチを選ぶ場合
🔸アドヒアランス向上を重視
🔸介護負担軽減が必要
🔸週2回の管理が可能
アリドネパッチを選ぶ場合
🔸ドネペジル経口薬からの切り替え
🔸シンプルな用量設定を希望
イクセロンパッチを選ぶ場合
🔸細かい用量調整が必要
🔸段階的な増量を希望
🔸皮膚刺激を最小限に抑えたい
比較データ

週2回貼付タイプと毎日貼付タイプの効果に違いがあるのか?
リバスチグミンの新規マルチデイパッチ製剤(週2回)とイクセロン®経皮パッチ(1日1回)のバイオアベイラビリティ比較試験 – ランダム化臨床試験
というPubmedの文献では
週2回貼るタイプのリバスチグミンパッチは、従来の1日1回と比べて薬物血中濃度(バイオアベイラビリティ)は同等と報告されています。接着性も良好で、安全性に大きな差は認められていません。
週2回タイプで皮膚障害は増える?
週2回の貼り替えということは数日貼りっぱなしということなので、かぶれが心配になり、調べたところPubmedにこのような論文がありました。
スペインにおける、週2回リバスチグミンパッチに関する臨床医の見解
この研究では
脳神経内科医や老年病専門医は、毎日貼り替える薬よりも週2回貼り替えるリバスチグミンパッチの方が肌トラブルは少ないと感じている、という結果でした。
ただし、これは実際の副作用発生率を比較した研究ではなく、医師の印象を集めた調査である点には注意が必要です。
切断、剥がれた時の対応

アリドネパッチ | イクセロン/リバスタッチ | リバルエンLAパッチ | |
切断 | ハサミで切らない | 切らずに使用する | 推奨しない |
剥がれた時の即座対応 | 新しいパッチに貼り替え | 新しいパッチに貼り替え | 新しいパッチに貼り替え |
次の貼り替え | 予定時間に貼り替え | 翌日の通常時間に貼り替え | 予定の貼り替え日に貼り替え |
部分剥がれ対応 | 記載なし | 記載なし | ばんそうこうで固定可 |
※切断については添付文書やインタビューフォームそのままの表現で書きました。
まとめ

アルツハイマー型認知症は脳にゴミが溜まり、神経細胞が死に、脳が萎縮する疾患です。
3種類の貼付薬の剤形は全てマトリックス型ですが、リバルエンLAパッチのみ多層マトリックス型です。この違いが週2回貼付を可能にしています。
貼付部位は全て背部、上腕部、胸部。
アリドネパッチのみ高度認知症に適応があります。
全て切断してはいけません。
剥がれた場合は新しいものに貼り替えます。
以上、認知症の貼り薬について共通点、相違点をまとめました。
高齢化が進む時代にこれらの薬に触れる機会が多くなると思います。
今日の内容が少しでも服薬指導等のお役に立てたら嬉しいです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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