貧血に悩む方が、食事から効率よく鉄分を摂取したいと考えるとき、よく耳にするのが「レバーを食べると良い」というアドバイスです。しかし、レバーが苦手な方も少なくありません。さらに、植物性の鉄は動物性の鉄に比べて吸収率が低いため、代わりに何を摂取すれば良いのか悩む方も多いでしょう。
例えば、カツオを100g、レバーを80g摂れば必要な鉄分を補えるという表現が一般的ですが、「刺身なら何切れ」「焼き鳥の串なら何本分」といった具体的な量で説明した方が、患者さんにとってイメージしやすくなります。この記事では、そんな鉄分補給の工夫や、レバー以外で鉄分を効率よく摂取する方法について詳しく解説します。
さらに、日本人の鉄分摂取の基準値や実際の摂取量について触れ、足りていない部分をどう補うべきかを具体的に示します。また、鉄剤の中でもよく使われるフェロミアとフェログラデュメットの違いや選び方についても解説します。貧血の患者さんへの対応を充実させたいと考えている方にとって、役立つ情報をお届けしますので、ぜひ参考にしてください。
鉄の基本情報
- 鉄は人体に必要なミネラルの一種。
- 成人の体内には約3g~5g存在。
- 体内の鉄の約70% は赤血球のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンに存在。
- 残りの30% は肝臓、骨髄、筋肉に貯蔵鉄として蓄えられる。
鉄不足になると赤血球のヘモグロビンが減量し、酸素供給不足になる鉄欠乏性貧血になる
鉄欠乏性貧血の症状
- 集中力低下
- 頭痛
- 食欲不振
- 筋力低下
- 疲労感
現在の鉄摂取状況と推奨量
日本人の鉄分摂取状況は推奨量に対して不足しているケースが多いです。以下に推奨量と実際の平均摂取量を比較します。
推奨量(mg/日) | 実際の平均摂取量(mg/日) | ||
成人男性 | 7.0〜7.5 | 6.9 | わずかに不足 |
成人女性(月経あり) | 10.5〜11 | 5.9 | かなり不足 |
成人女性(月経なし) | 6.5〜7.0 | 5.9 | やや不足 |
月経がある女性は1日あたり4~5mgの鉄が不足していると考えられる。
貧血の診断基準
- 成人男性: 13.0~16.6 g/dL
- 成人女性: 11.4~14.6 g/dL
女性全体のうち、約10~20%が鉄欠乏性貧血を発症していると言われている。
データによっては成人女性の4人に1人は鉄欠乏性貧血であると報告されている。
ヘム鉄と非ヘム鉄について
ヘム鉄
- 主な特徴
- 動物性食品(赤身の肉、魚)に多く含まれる。
- 2価鉄(Fe²⁺)がポルフィリンに包まれている構造。
- 胃腸へのダメージが少なく、吸収阻害を受けにくい。
- 食品中の吸収率は15~20%。
- 吸収メカニズム
まず、ヘム鉄は「ヘムオキシゲナーゼ」という特別な酵素によって分解される。この分解によって、ヘム鉄は体が利用しやすい形の「鉄」に変わる。次に登場するのが「HCP1(ヘムキャリアタンパク質)」という運び屋。このHCP1が分解された鉄を細胞内に運び込み、全身の必要な場所に届ける手助けをしてくれる。このように、ヘム鉄は分解されて吸収されやすい形になり、効率よく体中に行き渡ることで、酸素を運ぶ赤血球を作ったり、エネルギーを生み出す働きをサポートしている。
非ヘム鉄
- 主な特徴:
- 植物性食品や鉄剤に多く含まれる。
- 3価鉄(Fe³⁺)として存在し、そのままでは吸収されにくい。
- 胃腸への刺激が強く、吸収阻害因子(タンニンなど)の影響を受けやすい。
- 吸収率は低く、2~5%程度。
- 吸収メカニズム
非ヘム鉄は、ビタミンCや体の中の特別な酵素(Dcytb)によって「2価鉄」という吸収されやすい形に変わる。2価鉄になった非ヘム鉄は、小腸にある「DMT1(輸送たんぱく質)」という専用の入り口を通って、細胞の中に取り込まれる。
鉄の摂取の注意点
- 非ヘム鉄の吸収率を上げるためにはビタミンCや動物性タンパク質と一緒に摂取するのが効果的。
ビタミンCは、3価鉄(Fe³⁺)を2価鉄(Fe²⁺)に還元する働きがある。この変換によって、非ヘム鉄が腸で効率的に吸収されるようになる。 - 肉や魚などに含まれる動物性タンパク質は、非ヘム鉄の吸収を高める効果がある。具体的なメカニズムは完全には解明されていないが、消化中に鉄を溶解しやすい状態にすることで吸収を助けるとされている。
- タンニン酸は鉄の吸収を悪くするので、鉄分を含む食事の前後1時間は、お茶やコーヒーを控える
鉄が多く含まれる食品
ヘム鉄
貧血は月経がある女性に多いが、鉄推奨摂取量と鉄平均摂取量の差は4-5mgある。
特別な偏食でなければこれくらいの鉄量を多めにとれば良いと思う。
鉄4-5mgとはどれくらいなのか?
レバーの鉄分量
- 豚レバー串1本(50g)で6.5mg
- 鶏レバー串1本(50g)で4.5mg
レバーに関しては豚が一番鉄分が多く、牛が一番少ない
レバー串1本で摂取量と推奨量の差を埋められるが、ビタミンAが非常に多く含まれ、過剰摂取すると健康リスクがあるため、週に2~3回程度の摂取がおすすめ。
赤身の肉の鉄分量(可食部100gあたり)
牛肉
- 肩ロース(赤身):2.0mg
- もも(赤身):2.3mg
- ひき肉(赤身):1.5mg
- サーロイン(脂身が多い):0.7mg
鶏肉
- むね肉(皮なし):0.4mg
- ささみ:0.3mg
- もも肉(皮なし):0.8mg
- 手羽元:1.0mg
豚肉
- もも(赤身):0.8mg
- 肩ロース(赤身):1.1mg
- 赤身の肉だけで鉄分摂取不足を補うのは現実的に難しい
- 赤身の肉に関しては牛肉が鉄分が多い
- 摂り安さは豚肩ロースや鶏もも
魚、貝類の鉄分量
月経がある女性が不足している鉄分(約4mg)を補う場合
- カツオ(生):約240g(刺身8切れ程度)
- マグロ(赤身、生):約360g(刺身12切れ程度)
- マグロ缶(油漬け):約310g(缶詰約2缶分)
- あさり:約20個
- しじみ:約40~45個
魚や貝だけで鉄分摂取不足の差を埋めるのは難しい
だからこそ非ヘム鉄も上手に取り入れて、組み合わせて摂っていくのが大切
非ヘム鉄
- ほうれん草のおひたし1人分(約50g):約1.0mg
- 納豆1パック(40g):約1.3mg
- 豆腐(木綿)1丁:3.6mg
これらにビタミンCを追加したり、ヘム鉄と一緒に摂ると吸収率が上がる。
鉄剤の比較
フェロミア(クエン酸第一鉄)
フェロミア+ビタミンC
以前はビタミンCと一緒に摂ったほうが吸収が上がると言われていた。
実際にシナールと一緒に処方されることもあった。
しかし最近はビタミンCとの同時摂取は推奨されていない。
その理由は
- クエン酸が幅広い環境(酸性から塩基性まで)で溶けやすく、吸収されやすい形(不溶性の固まりを作らず、小さい分子のままでいる)を保つのでビタミンCを同時に摂取する必要がない。
- 患者によっては胃腸障害の副作用が増大する可能性がある
「患者によっては胃腸障害の副作用が増大する可能性がある」について
この理由は大きく2つ
- 二価鉄イオンが一気に出てきて、胃の粘膜を刺激するから
- 二価鉄イオンは反応しやすい性質を持っており、胃の粘膜のタンパク質と反応して酸化反応や変性が起こり粘膜の防御機能が低下してしまうから
こういうと非ヘム鉄+ビタミンCも一緒に摂取すると胃に負担がかかりそうですが、摂取量が全然違うので(食事は数mgでフェロミアは1錠50mg)食事からの鉄+ビタミンCは胃への負担は起こりにくい。むしろ吸収を上げるために一緒に摂取したほうが良い。
クエン酸第一鉄は、ビタミンCの助けを借りなくても吸収されやすい特徴を持っています。そのため、ほかの鉄剤や非ヘム鉄食品と混同しないよう、患者さんには「ビタミンCを特別に摂らなくても効果が期待できる」点を伝えると良いでしょう。
フェロミア+タンニン酸
以前はお茶等のタンニンが含まれるものと一緒に鉄剤を飲むと鉄剤の吸収が悪くなると言われていました。タンニン酸で鉄の吸収率が約半分に、緑茶で約3分の2に低下するとの報告がある。一方で、クエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミア)は、タンニン酸と結合して高分子キレートを一部形成するものの、緑茶と一緒に摂取しても鉄の吸収や貧血改善効果に影響がないとの研究結果が報告されている。
用法
通常成人は、鉄として1日100~200mg(2~4錠)を1~2回に分けて食後経口投与する。
空腹時のほうが吸収が良いが、食後の方が悪心、嘔吐の副作用が少ない。
フェログラデュメット
徐放性
錠剤がゆっくりと溶けるよう設計されている。これにより、胃や腸への負担を軽減し、鉄の吸収を安定させる効果がある。
用法
鉄として、通常成人1日105~210mg(1〜2錠)を1~2回に分けて、空腹時に、又は副作用が強い場合には、食事直後に、経口投与する。
空腹時にも服用できるため、吸収効率が高い。
フェロミア | フェログラデュメット | |
主成分 | クエン酸第一鉄 | 硫酸鉄 |
溶解性と吸収性 | 非イオン型で、広いpH範囲で溶解し、胃酸の影響を受けにくく吸収が良好 | 徐放性製剤で、消化管内で徐々に鉄を放出し、胃粘膜への刺激が少ない |
服用タイミングと副作用の違い | 食後服用推奨、消化器症状(悪心、嘔吐など)が比較的多い | 空腹時服用可能、副作用は一般的に少ない |
相互作用(食品や薬との影響) | 緑茶やコーヒーのタンニン酸による吸収阻害を受けにくい | タンニン酸や他の薬剤の影響を受けやすい場合があり |
効果の現れ方 | フェロミアは速やかに溶解して吸収されるため、即効性が期待できる | 徐放性で、吸収が持続的に行われる |
適応する患者の違い | 胃酸分泌正常または高い患者、高齢者、胃切除患者 | 消化器症状が気になる患者、胃腸への刺激を避けたい患者 |
処方の選択基準 | 吸収効率高く、迅速な効果を求める場合 | 消化器症状軽減、副作用軽減、徐放性を重視する場合 |
確かにレバーは一番手っ取り早く鉄分を摂取できます。しかしレバー以外にも方法はあります。鉄分が多く含まれている食品の摂り方を工夫をしたり、上手く組み合わせていきましょう。それでもダメなら医師と相談をし、鉄剤での治療をしていきましょう。
以上、鉄を含む食品について、鉄剤についてまとめました。
貧血を改善するためには、鉄分を効率的に摂取する工夫が重要です。この記事で紹介したように、レバー以外にも多くの食品から鉄分を補うことができます。さらに、ビタミンCや動物性タンパク質との組み合わせを活用することで、吸収効率を向上させることが可能です。
日々の食生活に少しの工夫を加えるだけで、鉄分不足を改善し、健康的な体を手に入れることができます。この記事が日々の業務の一助になれば幸いです。最後までお読み下さりありがとうございました。
参考資料
厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-022.html?utm_source=chatgpt.com
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
日本人の食事摂取基準(2020年版) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
鉄代謝と貧血 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/9/107_1921/_pdf
エーザイQ&Ahttps://faq-medical.eisai.jp/category/show/56?site_domain=faq
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