「どちらの薬が良いですか?」
日々の業務の中で、患者さんからこの質問を受けることがあるかもしれません。そのとき、自信を持って答えられるでしょうか?
ネットで調べた情報をそのまま鵜呑みにしてしまい、サイトによって違うことが書かれていて混乱した経験はありませんか?
正しい知識を得るためには、信頼できる情報源をもとに学ぶことが大切です。そこで今回は、バゼドキシフェン(BZA)とラロキシフェン(RLX)という2つの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)について、ガイドラインや政府系の文献から正確な情報をまとめました。
「なんとなく知っている」から「自信を持って説明できる」へ。
そんなステップアップを目指して、一緒に学んでいきましょう!
オレンジの枠と赤字の部分、結論を読むだけで、ポイントがすぐに理解できるよう工夫しています。
- ラロキシフェンは乳がん予防の効果あり
- バゼドキシフェンは特に腰の骨(腰椎)の密度をしっかり保つ効果が高い
- 子宮への作用はバゼドキシフェンの方が少ない
基本的な比較

項目 | バゼドキシフェン(BZA) | ラロキシフェン(RLX) |
---|---|---|
分類 | 第二世代SERM | 第二世代SERM |
開発元 | ファイザー社 | イーライリリー社 |
作用機序 | 骨に対して: エストロゲンのように働き、骨を強くして骨折を防ぐ 乳房や子宮に対して: エストロゲンの拮抗作用を持ち、不要な増殖を防ぐ。 | 骨に対して: エストロゲンのように働き、骨を強くして骨折を防ぐ 乳房や子宮に対して: エストロゲンの拮抗作用を持ち、不要な増殖を防ぐ。 |
適応症 | 閉経後の骨粗しょう症治療 | 閉経後の骨粗しょう症治療(アメリカでは乳がん予防薬として認可されている) 乳癌診療ガイドライン2022版 |
バゼドキシフェンとラロキシフェンの共通点

両者はSERMに分類される薬であり、以下の共通点がある。
✅ 骨密度を上昇させる
✅ 椎体骨折(背骨の圧迫骨折)リスクを低減する
✅ 乳房や子宮内膜に対するエストロゲンの影響を抑制する
✅ 長期投与が可能であり、骨密度の維持に有効
✅ 静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクがあるため、注意が必要
✅ エストロゲン受容体を選択的に調節することで副作用を軽減
✅ 閉経後の女性の健康管理に役立つ
バゼドキシフェンとラロキシフェンの相違点

ラロキシフェンの骨粗鬆症治療と乳癌予防効果
ラロキシフェンの適応と効果
ラロキシフェンは 閉経後骨粗鬆症の治療薬として認可されているが、ラロキシフェン群とプラセボ群で効果を比較した試験(MORE、CORE、RUTH試験)の結果、乳癌発症予防効果が確認され、米国FDAにより認可された。
3つの研究の結果をまとめて分析した結果
• 乳癌予防効果
浸潤性乳癌発症抑制率:56%減少
ホルモン受容体陽性乳癌:67%減少
ホルモン受容体陰性乳癌:効果なし(タモキシフェンと同様)
• 骨折予防効果
脊椎の圧迫骨折を39%減少
ラロキシフェンの副作用について
ラロキシフェンには 血栓ができやすくなる 副作用がある。
- 血栓症 → 1.6倍 に増加
- 肺塞栓 → 2.2倍 に増加
このリスクは 長時間動けない状況(手術後や長距離移動など) で特に高まるため、注意が必要。
日本人のデータ(市販後調査)
日本人の閉経後女性を対象にした調査では、以下の副作用が報告されています。
- 手足のむくみ → 0.65%(1000人に約6〜7人)
- 静脈血栓症(足の静脈に血栓ができる) → 0.16%(1000人に約1〜2人)
タモキシフェンとの比較(STAR試験)
タモキシフェンと比べると、ラロキシフェンは 副作用が少ない ことが分かっている。
- 血栓症:ラロキシフェンの方が 25%低い
- 深部静脈血栓症(足の静脈にできる血栓):ラロキシフェンの方が 28%低い
- 子宮内膜癌:ラロキシフェンの方が 45%低い
ラロキシフェンは 骨粗鬆症治療と乳癌予防(特にホルモン受容体陽性乳癌) に効果があるが、血栓症リスクには注意が必要。タモキシフェンと比較すると 乳癌予防効果はやや劣るものの、子宮内膜癌や血栓症リスクが低いという利点がある。
ラロキシフェン群とプラセボ群で効果を比較した試験(MORE、CORE、RUTH試験)の詳細
MORE試験、CORE試験、RUTH試験は、骨粗鬆症や乳がんリスク低減に関連する薬剤の有効性を評価する臨床試験。
それぞれの特徴は以下の通り
- MORE試験: ラロキシフェンの骨密度改善効果と椎体骨折リスクの低下を評価した試験。
- CORE試験: MORE試験の延長として、ラロキシフェンの長期使用による乳がんリスク低減効果を検討。
- RUTH試験: ラロキシフェンが心血管疾患リスクと乳がんリスクに与える影響を評価した試験。
これらの試験は、ラロキシフェンの多面的な効果を明らかにしている。
試験名 | 研究目的 | 対象 | 追跡期間 | 主な結果 | 結論 |
---|---|---|---|---|---|
MORE試験 | ラロキシフェンの乳がんリスク低減効果の評価(4年間) | 閉経後の骨粗鬆症女性 | 4年間 | 乳がんリスク低下(特にER陽性) 4年間で効果を確認。 | ラロキシフェンは乳がん予防に有効 |
CORE試験 | ラロキシフェンの乳がんリスク低減効果の長期評価(8年間) | MORE試験参加者(閉経後の骨粗鬆症女性) | 8年間(MORE+CORE) | 乳がんリスク低下が8年間持続 (特にER陽性) | ラロキシフェンの乳がん予防効果は長期間持続する |
RUTH試験 | ラロキシフェンの心血管イベントと乳がんへの影響評価(5.6年間) | 閉経後女性(骨粗鬆症の有無を問わず、心血管疾患リスクがある群も含む) | 約5年半の間 | 乳がんリスク低下(特にER陽性) 心血管イベントの予防効果なし 血栓リスク増加。 | 乳がん予防には有効だが、心血管疾患の予防効果はなく、血栓リスクに注意が必要。 |
バゼドキシフェンの効果を評価するために、3つの動物モデルを使った実験
バゼドキシフェンの効果を正確に評価するため、3種類の動物モデルを使用。
未成熟ラット、卵巣摘除ラット、卵巣摘除カイクイザル
なぜ3つの動物モデルを使用するのか
- 未成熟ラット:ホルモンに敏感で、子宮への影響を短期間で評価できる。
- 卵巣摘除ラット:閉経後の骨粗鬆症に似た状態をつくり、骨密度や子宮への影響を調べるのに適している。
- 卵巣摘除カニクイザル:ヒトの骨代謝に最も近く、長期間の骨や体への影響を評価するのに適している。
試験で使用された動物モデルとその結果
動物モデル | 使用目的 | 評価対象 | 試験結果 |
---|---|---|---|
未成熟ラット | BZAとRLXが子宮に与える影響を調べる | 子宮の大きさの変化 子宮内膜の厚さ | BZAはRLXより子宮への影響が少ない。 RLXは子宮内膜を厚くするが、BZAはその作用を抑える。 また、BZAはRLXの子宮への影響を和らげる働きがある。 |
卵巣摘除ラット(閉経後骨粗鬆症モデル) | BZAが骨の強さや密度を維持できるかを調べる | 腰椎・大腿骨の骨密度 骨の強さ 子宮への影響 | BZAはRLXと同じくらい骨密度の低下を防ぐ。 特に腰の骨(L1~L4)では、BZAの方が骨密度を維持する効果が高い。さらに、骨の強さも保つことができる。 BZAはRLXより子宮への影響が少ない。 RLXは子宮を大きくするが、BZAは影響を与えない。 |
卵巣摘除カニクイザル(猿) | BZAの長期間使用による骨や体への影響をヒトに近い環境で調べる | 18ヶ月後の 骨密度の変化 骨の強さ 脂質代謝 生殖器や他の臓器への影響 | BZA(0.5mg/kg/日以上)で骨密度の低下を防ぐ。 骨の強さや構造に悪い影響はない。 子宮や乳腺を含む他の臓器にも悪い影響はない。 LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減らす効果がある。 |
まとめ
- 未成熟ラット
- BZAはRLXより子宮への影響が少ない
- RLXは子宮内膜を厚くするが、BZAは抑える
- BZAはRLXによる子宮への影響を防ぐ
- 卵巣摘除ラット
- BZAはRLXと同じくらい骨密度を維持する
- 特に腰の骨(L1~L4)でBZAの骨密度維持効果が高く、骨の強さも保つ
- BZAはRLXよりも子宮への影響が少ない
- RLXは子宮を大きくするが、BZAは影響なし
- 卵巣摘除カニクイザル
- BZAは0.5mg/kg/日以上の投与で骨密度の低下を防ぐ
- 骨の強さや構造に悪い影響なし
- 生殖器(子宮・乳腺)や他の臓器に悪い影響なし
- LDLコレステロールを減らす効果あり
BZAが骨密度を維持しながら子宮への影響を最小限に抑える、安全性の高い治療薬であることを示唆されている。また、ヒトに近い動物モデルを使うことで、その効果と安全性をより確実に評価できた
上記をBZAとRLXの比較に絞ると
比較項目 | BZA(バゼドキシフェン) | RLX(ラロキシフェン) |
---|---|---|
子宮への影響 | 子宮内膜を厚くする作用がほとんどない | 子宮内膜を厚くする作用がある |
骨密度維持効果 | RLXと同等の骨密度維持効果、特に腰椎(L1~L4)でBZAの方が高い | 骨密度を維持するが、BZAより腰椎への影響は弱い |
骨の強度 | 骨の強さ(圧縮強度)を維持 | 骨密度を維持するが、骨の強度データはBZAほど詳細でない |
骨折リスク低減 | 椎体骨折と非椎体骨折のリスクを低減 | 椎体骨折のリスクを低減、非椎体骨折のリスク低減はBZAより低い |
脂質代謝 | LDLコレステロールを低下させる | LDLコレステロールを低下させるが、BZAとの比較データは不明 |
長期使用の安全性 | 生殖器(子宮・乳腺)や他の臓器に悪影響なし | 子宮内膜への影響があるため長期使用の安全性に注意が必要 |
副作用 | 静脈血栓塞栓症のリスクあり(RLXと同程度) ほてり、下肢痙攣が報告されている | 静脈血栓塞栓症のリスクあり ほてり、下肢痙攣が報告されてい |
- BZAはRLXと比べて、子宮への影響が少なく、安全性が高い。
- BZAは腰椎(L1~L4)の骨密度維持や、非椎体骨折のリスク低減においてRLXより優れている可能性がある。
- 両者ともLDLコレステロールを低下させるが、有意差については不明。
- 副作用(静脈血栓塞栓症、ほてり、下肢痙攣)は両者ともに報告されている。
この比較から、BZAは骨粗鬆症治療において、RLXよりも子宮への影響を抑えつつ、骨密度維持や骨折リスク低減において優れた効果を持つ可能性があることが示唆される。
結論
バゼドキシフェン(BZA)は骨密度の増加と骨折予防効果が高く、安全性の面で優れている。
ラロキシフェン(RLX)は乳がんリスク低下の有意差があり、乳腺への影響が抑えられる点が特徴。
BZAは子宮への影響が少なく、長期使用の安全性も確認されている。
両薬剤とも静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクがあるため、患者のリスクを考慮して選択が必要。
骨粗鬆症治療の選択肢として、患者の健康状態や合併症のリスクに応じた適切な判断が求められる。
以上バゼドキシフェンとラロキシフェンの違いについてまとめてみました。日々の業務のお役に立てば嬉しいです。
📚 参考文献
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