前回は、オレキシン受容体拮抗薬として広く使われているベルソムラについて詳しく紹介しました。今回は、その類似薬であり、近年注目を集めている「デエビゴ（レンボレキサント）」にスポットを当ててみたいと思います。
デエビゴは、ベルソムラと同じように脳の目覚めのスイッチをブロックして眠りをうながす薬ですが、実は薬剤としての特徴や使いやすさに違いがあります。たとえば、吸湿性がないため一包化調剤が可能であり、私が勤める薬局でも、施設の患者さんによく使用されています。ベルソムラでは一包化が難しい場面でも、デエビゴなら対応しやすいというメリットが現場では大きな利点となっています。
これまでは添付文書を中心に見てきましたが、今回は視点を変えて、エーザイの公式な情報を参考に特徴をまとめ、さらに疑問に思っている事や私が勤めている薬局での使用状況について書いていきたいと思います。
今後も処方される機会が増えると予想される薬剤ですので、実務に役立つ視点で一緒に学んでいきましょう。
- 作用機序詳細
- 効果とその特徴
- 副作用と安全性
- 実際の使用状況と私見
作用機序
オレキシンは、脳内で「覚醒」を維持するために重要な役割を担っている。オレキシンは主に、オレキシン1受容体（OX1R）とオレキシン2受容体（OX2R）という2種類の受容体に結合し、その刺激を通じて覚醒状態を保っている。
デエビゴは、このOX1RおよびOX2Rの両受容体に拮抗的に作用し、オレキシンの働きをブロックする。これにより、過剰な覚醒が抑えられ、脳が自然な眠りの状態へと移行しやすくなる。
OX1RとOX2Rは、それぞれ異なる脳の領域に分布しており、果たす役割にも違いがみられる。
OX1Rの分布と作用
OX1R（オレキシン1受容体）は、脳幹に存在する青斑核（せいはんかく）に多く分布している。
青斑核は、ノルアドレナリン（NA）を産生する中枢であり、緊張、集中、覚醒状態の維持に深く関与している。
青斑核のOX1Rが刺激されると、ノルアドレナリンの分泌が促進され、覚醒状態が高まり、集中力が向上する。
このため、OX1Rの活性化は「目を覚まし、注意力を高める」働きと関係している。
一方で、OX1Rを遮断するとノルアドレナリンの分泌が抑制され、交感神経の活動も低下する。
その結果、身体がリラックスした状態になり、眠気を感じやすくなる。
OX2Rの分布と作用
OX2Rは、視床下部の中でも結節乳頭体核（TMN：tuberomammillary nucleus）と呼ばれる部位に多く存在する。
なお、オレキシンそのものは視床下部の外側野（lateral hypothalamus）で産生される。
TMNは、ヒスタミン神経の中枢として知られ、ヒスタミンは覚醒を維持するうえで極めて重要な神経伝達物質である。
OX2Rが刺激されると、TMNからヒスタミンの放出が促進され、脳は覚醒状態を保つことができる。日中の活動性を支えるうえで、OX2Rの刺激は重要な役割を果たしている。
これに対し、OX2Rを遮断するとヒスタミンの分泌が抑制され、脳の覚醒レベルが低下する。結果として、自然な眠気が生じ、スムーズな入眠を促すことができる。
これは抗アレルギー剤である抗ヒスタミン薬による眠気と同じで、覚醒させるヒスタミンをブロックすることにより眠気が出てくる。（ただしデエビゴはオレキシンを通した間接的な作用、抗ヒスタミン薬は直接的に作用する）
OX1Rはストレスによる覚醒に関わり、OX2Rは覚醒そのものを保つため、OX1Rを遮断すると不安がやわらぎ、OX2Rを遮断すると眠りやすくなる。
デエビゴのOX1R・OX2Rに対する結合作用
試験管を使った実験ではあるが、ベルソムラよりもOX1R・OX2Rのオレキシン受容体に強く結合する傾向があり、特にOX2Rに対する親和性が高いことが報告されている。
さらに、OX2Rに対しては「くっつくのが早く」「離れにくい」性質があり、結果として作用が安定して持続しやすいことが期待されている。
（出典：エーザイ株式会社 医療関係者向け資料 https://medical.eisai.jp/products/dvg）
デエビゴは、眠りに大事なOX2Rに対して、早く・しっかり・長くくっつく薬である。だから、自然にぐっすり眠れる効果が期待できる
効果
※本記事は、エーザイ株式会社の医療関係者向け資料（エーザイ）を参考に、薬局薬剤師としての見解を加えて要約したものである。
エーザイのホームページに書かれてあるデエビゴの情報には第Ⅱ相試験 と 第Ⅲ相試験 （２つ）が書かれている。
その理由は、それぞれの試験が目的や役割が異なるからである。
第Ⅱ相試験（用量反応試験）
少人数で「どの量がちょうどよく効くか」を調べる試験。
第Ⅲ相試験（国際共同303試験）
多くの患者で「本当に効くか、安全か」を確かめる大規模な試験。
外国第Ⅲ相試験（304試験）
海外で行われた試験で、プラセボやゾルピデム（長時間型）と比較。
ちなみに一般的な第I相試験、第Ⅱ相試験、第III相試験の違い
| 試験名 | 主な目的 | 対象者 | 規模 |
| 第I相試験 | 安全性 | 健康な人中心 | 数十人程度 |
| 第II相試験 | 効果＋安全性 | 患者さん | 数十～数百人 |
| 第III相試験 | 標準治療との比較 | 多くの患者さん | 数百～数千人 |
デエビゴの海外第II相試験（外国201試験）
少人数を対象に用量ごとの効果を評価
- 眠っていた時間の割合（睡眠効率）は、2週間を通じて安定して改善が認められた。
- 全ての用量で寝つきが改善。こちらも2週間にわたり安定した効果が確認された。
- 翌朝の眠気は、2.5～10mgでは問題なし、15mg以上では眠気が残る傾向が見られた。
- 中途覚醒は一部改善があったが、持続はしなかった。
- 主な副作用は眠気であり、高用量で悪夢・頭痛の増加が認められた。
この試験で5mgと10mg、この2つの量が丁度良いと分かった。
次の国際共同第III相試験では5mgと10mgで長期間の効果と安全性を確認する。
デエビゴの国際共同第III相試験（303試験）
949名を対象に、5mg・10mgで6カ月間の効果と安全性を検討。
- 寝つき・中途覚醒・睡眠効率すべてにおいて改善が見られた。
- 日中の不調（疲れ・集中力低下）も軽減傾向を示した。
- 副作用は10mgでやや多く、眠気・悪夢・注意力障害などが報告された。
- 長期使用後の離脱症状は見られなかった。
ここで一度整理
用量を決めたのが第Ⅱ相試験（用量反応）
本当に効くかを証明したのが第Ⅲ相試験（303試験）
であった。次は他の薬と比べてどうかを確認した、海外第Ⅲ相試験（外国304試験）について記載していく。
デエビゴの海外第Ⅲ相試験（外国304試験）
※ゾルピデムER（日本未発売）と比較。
- 入眠までの時間が有意に短縮された。
- 中途覚醒時間も継続的に短縮。
- 翌朝の眠気・ふらつきも少なく、安全性は良好。
- 認知機能への影響も軽微であった。
- ゾルピデムERは、不眠症の治療薬であるゾルピデムの「ゆっくり長く効くタイプ（徐放製剤）」である。
- 海外（特にアメリカ）ではよく使われているが、日本では未発売。
なぜ日本未発売のゾルピデムERと比較するのか？
考えられること
1.国際的な視点での「標準薬」との比較
ゾルピデムERは、海外（特にアメリカ）では不眠症治療の代表的な薬の一つである。
そのため、国際的には「標準的な治療薬」とみなされている。
デエビゴが「この国際的に使われている薬と比べても劣らない、あるいは優れている」と示せることで、国際的な評価（承認・ガイドライン・信頼性）につながる。
２.日本国内でも参考になる理由
①マイスリー（ゾルピデムIR）は日本でよく使われている睡眠薬だから、デエビゴと比べるのにちょうどいい相手。
②ER製剤は「効果を長く保つ」タイプなので、持続効果を重視する薬（デエビゴ）との比較として理にかなっている
③ERと比較して効果・安全性が良ければ、デエビゴの「一剤で夜通し効く」特徴がさらに際立つ
実際の感覚
デエビゴは、ベンゾジアゼピン系など従来のGABA系睡眠薬に比べて依存性が少なく、副作用も比較的少ないことから、安全性の高い薬である。そのため、薬剤師としても不眠時に勧めたい睡眠薬の一つである。
実際にGABA系より副作用を訴えられることは少ないと思う。ただ、副作用が完全にゼロというわけではなく朝起きづらいという患者さんもいた。そういう場合は離脱することはなく2.5mgに減量をし、続いている感じだ。減量した人は60代後半女性と70代女性。高齢であるほど作用に過敏になってくるのだと思う。
ベルソムラでは悪夢を見た患者さんに出会ったが今のところデエビゴではない。
効果もあり継続している方が多い。
最近、新規眠剤を使いたい場合はロゼレム、ベルソムラ、デエビゴが処方されることが多く、GABA系はほとんどない。GABA系は元々服用している人にしか処方されていないと思う。
他の眠剤を服用していた人がデエビゴに処方変更になっているケースもある。この患者さんは60代女性。色々な眠剤を使ってきた。リフレックスからマイスリーそして現在デエビゴになっている。デエビゴになり3年は経っていると思うのでデエビゴが合っているのだと思う。
現状としては圧倒的にGABA系の存在を抑え、ロゼレム、ベルソムラ、デエビゴが眠剤の主役になっている。
まとめ
☑️デエビゴは効果副作用を考えると5、10mgが適切な量。
☑️初期から長期にわたって寝つきを改善し、夜中に起きにくくなり、しっかり眠れる効果がある
☑️眠れるようになることで、日中の不調や疲れやすさも軽くなる
☑️比較的安全性が高い
☑️ゾルピデムERと比較しても優れた効果が確認された
以上デエビゴについてまとめました。
高齢化が進む中で、ふらつきや認知機能低下等の副作用が少なく、でも効果の高い眠剤が求められます。デエビゴはそういう条件に当てはまる素晴らしい薬だと思います。
この記事が日々の業務のお役に立てれば嬉しいです。最後までお読みくださりありがとうございました。
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